▼人間交差点 [ベリーズ工房]
77 名無し募集中。。。 New! 04/05/15 08:45
幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに私を育ててくれた。学もなく、技術もなかった
母は、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計を立てていた。それでも当時住んでいた
土地は、まだ人情が残っていたので、何とか母子二人で質素に暮らしていけた。
娯楽をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作りの弁当を持って、近所の河原とかに
遊びに行っていた。給料をもらった次の日曜日には、クリームパンとコーラを買ってくれた。
ある日、母が勤め先からモーニング娘。のコンサートチケットを2枚もらってきた。
私は生まれて初めてのモー娘観戦に興奮し、母はいつもより少しだけ豪華な弁当を
作ってくれた。
会場に着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。
母がもらったのは招待券ではなく優待券だった。
チケット売り場で一人1000円ずつ払ってチケットを買わなければいけないと言われ、
帰りの電車賃くらいしか持っていなかった私たちは、外のベンチで弁当を食べて帰った。
電車の中で無言の母に「楽しかったよ」と言ったら、
母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。
私は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、一生懸命にレッスンをした。
キッズオーディションに合格し、映画で主役も張った。
ZYXにも選ばれ、母にCDデビューを見せてやることもできた。
そんな母が去年の暮れに亡くなった。死ぬ前に一度だけ目を覚まし、
思い出したように「モー娘。ごめんね」と言った。私は「楽しかったよ」と言おうとしたが、
最後まで声にならなかった。
嗣永桃子
日本最大級ネット書店のイーブックオフ