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▼イジメ。死のうと思ったあの日 [安倍なつみ]

モーニング娘。5+3-1(ASAYAN編 宝島社)」より引用。

イジメ。死のうと思ったあの日。

 「今だからこうやって笑って話せるんですけど…… その時は本当に死のうと思ってました。
お母さんが看護婦さんをやってたんで、うちにはいろんな風邪薬があったんですよ。それをい
っぱい飲めば死ねるかな、とか。ずっ とずっと、そんなことばっかり考えてました」
 なぜ歌手になりたいと思ったのか? 話がそのことに及ぶと、安倍なつみは唐突にそんな風
にしゃべり始めた。

 「中学1年生の時にすごいイジメにあってたんです。そのきっかけは、いきなりというか、
ホントにある日突然だったんですよ」

北海道室蘭市で育った安倍は、その日まで、大した悩みを抱える事も無く何不自由ない生活を送っていた。地元の公立中学に入った安倍は5、6人の女の子グループと仲良くなった。学校帰りに公園で、時間を忘れておしゃべりに熱中する、そんなつきあいだった。

 「その日も「公園行くべー」って、なっちもついていったんです。そしたらなんか、いきなり囲まれたんですよ。で……「ちょっとさぁ、前からいいたかったんだけど、あんた見てるだけでむかつく」って言われて……。すごいびっくりしたから、モジモジしていたんです。そしたら「とにかく学校に来るな」とか、「見てるだけで腹立つから、オマエは明日からゼッタイ学校来んなよ」とかってガーッといわれて。ほんのついさっきまで普通に話してたのにどうしたんだろうってぼんやりしてたら、今度はカバンを取り上げられて、教科書とかノートとかを地面にバッとばらまかれて……。そしたら、その後ですね、なっちに松ぼっくりを投げてきたのは。後に「松ぼっくり事件」っていうんです、ハハハ」
 「その辺に落ちてた松ぼっくりを拾ってなっちに投げようとしてるんです。でも、みんなやっぱり最初に投げるのが怖かったらしくて、「あんたやんなよ」とか「あんたからやりな」とかいいあっているんですよ。で、最初の子が投げたら、その後はもうボコボコ、ボコボコ投げらて……。それで思う存分投げたと思ったら、「学校来んなよ」みたいなことをまたガーッといって、バッと散っていったんです。」

 北海道の早い夕暮れが近づきつつある中、公園で一人、カバンの中身を拾い集めた安倍は家の人を、心配させたくないからと何事もなかったのかのような素振りをして自宅へと帰った。
 だが、母親は帰宅した娘の様子がおかしいことに、すぐに気がついた。
 「「もう明日から学校に行かない」っていったら、お母さんが、「明日学校に行かなかった
ら、これから先もずっと行けなくなるのよ。今負けたらダメ。辛いけど頑張りなさい。」っていってくれて。すごくその言葉は励みになったんですけど、でもやっぱりつらくて……。その頃はずーっと、布団にうずくまって泣いていました。それから学校ではたびたびイジメにあってて、それで本当に死のうと思ったんです……」
 死を考えるほど深刻なイジメにあった安倍はどのようにして最悪の状況から脱したのだろう
か。

 なぜ歌手になりたいと思ったのか? その答えはそこにあった。

 「ちょうど本気で死のうと思っていた時に、ラジオからJUDY AND MARYさんの「小さな頃から」っていう曲が流れてきたんですよ。その頃はまだジュディマリさんの存在を知らなかったし、その曲も初めて聴いたんですけど、歌詞の中に”ひとりじゃない”ってフレーズがあって。それがすごく心に残ったんです。今、学校の友達にはイジメられているけど、なっちには親も姉妹もおばあちゃんもいるんだ、ひとりじゃないんだって……。この曲を聞いてからですね、やっと堂々と学校に行けるようになったのは……」

 その後も学校での安倍に対するイジメは続いていた。比較的おとなしめのクラスメートに話しかけようとしても、例のグループから「安倍とは話すな」という忠告が彼女たちに対して出されてるいるのだった。そのため孤独な学校生活が続いた。しかしそんな中でも、安倍はJUDY ANDMARYの「小さな頃から」を胸に、部活などを通じて少しずつ友達を増やしていった。そしてなんと、中学を卒業する頃には松ぼっくりを投げつけてきた連中とも普通に話せる様にまでなっていたという。

 「自分もジュディマリさんのようにたくさんの人を歌で元気づけられたり、感動を与えられる人 になれたらいいなと思って…… 中学3年の進路を考える時期に、歌手を目指そうって決心したんです」
 音楽がイジメのつらさから自分を救い出してくれた。そんな音楽で自分も人を感動させたい……。
当時15歳の安倍は、こんな思いを胸に「モーニング娘。」の第一歩を踏み出したのだった。
 もし、あの日、あの瞬間にJUDY AND MARYの「小さな頃から」が流れてこなかったら安倍なつみはどうなっていたのだろうか……。

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